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おくみさんとそのしゅうい

お久美さんと其の周囲

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,369 字 · 149 页

青空文庫

その調った容貌を見てはその心までも疑う余地を与えられなかった。

重三は醜いと思う裏面に恭吉のまとまった様子が一日一日と広い領域を占め出して、彼の云う事も笑う事も皆自分に何処かで関係がありそうだと云う事までも、心の底には感じられて居た。

恭は段々とそれに気付かない程ほんとにお坊っちゃんではなかった。

殆ど下等なと云って好い位の想像を以て恭はお久美さんの此頃の態度を推察して居た。

恭吉は洗場で洗濯物に火延しを掛けながら小唄を唄って万事を胸にのみ込んで、渦巻の中に落ち込んだ軽い塵の様に自分自身を自分の感情に攻めつけられて居るお久美さんの若い姿をジイッと見て居た。

そして或る期待で恭は軽い心のときめきをさえ感じて居たのである。

自分の気持が自分で分らなくなるにつれて、お久美さんはすべての周囲を恐れ出した。

恭吉は怖ろしい者であった。

お関も重三も気味が悪かった。

人間と云う人間のすべてが、自分の心をのぞき込んで居る様な、何にか自分を仕様と掛って居るのではあるまいかと云う様な不安が湧いて、どうせ自分はたった一人世の中に放り出されて居るものなのだからと云うおぼろげな投げやりまで育って来て、自分なんかが居たって居なくったって日の出る事はいつも同じだ等と、その年頃に有勝ちな病的な悲哀に捕えられて居た。