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おくみさんとそのしゅうい

お久美さんと其の周囲

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,369 字 · 149 页

青空文庫

今まで心の澄み透る様な中に居たのが急に蒸しっぽい芥々した所に出て、気味の悪い息を胸一杯に吸って仕舞ったので、何かに酔いでもした様な気持になった※(「くさかんむり/惠」、第3水準1-91-24)子は、眉をしかめて生唾を飲みながら暗い中に立ち止まって仕舞った。

傍の三尺の入口からズーッと奥に続いて居る土間の陰気にしめっぽい臭いや乾いた穀物と青菜の入りまじった香りがすきまなくあたりをこめて、うす暗い電燈の光りがランプの火の様な色でどんよりとともって居る。

※(「くさかんむり/惠」、第3水準1-91-24)子は半年振りで見る山田の家の中を珍らしい様な気になりながらのぞいた。

茶色になって虫の食った箪笥の上には小鏡台だの小箱だのがごたごたと乗って、淋しい音をたてて居る六角時計の下に摺鉢に入れた蚊いぶしの杉の青葉がフスフスとえむい煙を這わせて居る中に五つ六つの顔がポツリポツリと見えて居る。

東北の人特有な鼻のつまった様な声が活気のない調子でやりとりされて居るのを見ると、寺の様に高い天井と黒く汚れた壁だの建具だの外無い部屋の中がまるでお化けが出そうに陰気に感じられた。