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おならさま

お奈良さま

坂口 安吾

「別冊小説新潮 第八巻第一〇号」1954(昭和29)年7月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,159 字 · 20 页

青空文庫

法衣のスソがボロボロになり、お奈良さまは足に負傷した。必死に争っているところへ犬の主家の婦人が現れて犬を押えてくれて、

「おケガなさいましたか」

「いえ、身からでたサビで、拙僧がわるかったのです。路地をまちがえてとびこみましてな。ちょッと急いでいたもので、イヤハヤ、まことに失礼を」

まるで自分が犬にかみついたように赤面してシドロモドロにあやまってこの路地からも逃げださなければならなかった。さしたる負傷ではなかったが、犬の咬傷は治りがおそく、また、かなりの鈍痛をともなうもので、その晩はちょッと発熱して悪夢にいくたびとなくうなされた。

★

初七日から四十九日までのオツトメの日には代理の高徳をさしむけてホトケの冥福を祈ってもらったが、ホトケには特別の愛顧をうけ、またはしなくもその臨終に立ち会った因縁もあるしするから、代理まかせにしておくだけでは気持がすまなかった。さりとて人の集る法事の席へはでられないから、平日をえらび、糸子も学校へ行ったあとの午前中を見はからって、読経におもむいた。

「御愛顧の大恩もあり、また浅からぬ因縁もあるホトケの法要にオツトメにも参じませず心苦しくは存じておりましたが、重ねて不調法をはたらいてはと心痛いたしましてな。