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おならさま

お奈良さま

坂口 安吾

「別冊小説新潮 第八巻第一〇号」1954(昭和29)年7月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,159 字 · 20 页

青空文庫

で、まア、本日はお人払いの上、心おきなく読経させていただきたいと存じまして参上いたしましたような次第で」

「お人払いとおッしゃいましても、ごらんのように隣り座敷には茶道のお稽古にお集りのお嬢さん方がおいでですし、唐紙を距てただけの隣室ですものねえ」

仏壇は茶の間にある。こまったことには、その仏壇は隣り座敷に最も接近したところにあるから始末がわるい。見ると茶の間の一隅に蓄音機があるから、

「これはよい物がありました。ワタクシ蓄音機を膝元へよせまして、これをかけながら読経いたしましょう。ジャズのようなうるさいレコードをかけますれば不調法も隣りまではひびきますまい。お経の声も消されるかも知れませんが、気は心と申しますからホトケは了解して下さると思います」

「隣室では皆さん心静かに茶道を学んでいらッしゃるのですよ。唐紙を距ててジャズをジャンジャン鳴らされてたまるものですか。まア、まア、なんという心ない坊さんでしょうね」

ソメ子は眉をつりあげて怒ってしまった。そのとき幸いにも居合せた唐七が、

「せっかくおいで下さったのだから、それではこうしましょう。奥の私の居間へホトケの位牌や遺骨を運びまして、そこで存分に冥福を祈っていただきましょう。