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かんかんむし
かんかん虫
有島 武郎
「白樺」1910(明治43)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,483 字 · 23 页
虫っけらは何処までも虫っけらで押し通して、人間の鼻をあかさして見てえし、先刻も云った通り、親ってえものは意気地が無え、娘丈けは人間竝みにして見てえと思うんだ。
おい、「空の空なるかな総て空なり」って諺があるだろう。旨めえ事を云いやがったもんだ。己れや其の晩妙に瞼が合わ無えで、頭ばかりがんがんとほてって来るんだ。何の事は無え暗闇と睨めっくらをしながら、窓の向うを見て居ると、不図星が一つ見え出しやがった。それが又馬鹿に気になって見詰めて居ると、段々西に廻ってとうとう見えなくなったんで、思わず溜息ってものが出たのも其の晩だ。いまいましいと思ったのよ。
そうしたあんばいでもじもじする中に暁方近くなる。夢も見た事の無え己れにゃ、一晩中ぽかんと眼球をむいて居る苦しみったら無えや。何うしてくれようと思案の果てに、御方便なもんで、思い出したのが今云った諺だ。「空の空なるかな総て空なり」「空なるかな」が甘めえ。
神符でも利いた様に胸が透いたんで、ぐっすり寝込んで仕舞った。
おい、も少し其方い寄んねえ、己れやまるで日向に出ちゃった。
其の翌日嚊とカチヤとを眼の前に置いて、己れや云って聞かしたんだ。