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しいたげられたてんさい
しいたげられた天才
小川 未明
「白象 第1冊」1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,087 字 · 9 页
いつも店頭へ人の立たぬことはなく、ことに夕暮れどきなど、往来まであふれていました。
秀吉は、いった日から流行歌の楽譜や、歌手の名まえを覚えるのに一苦労でした。制帽をかぶった二、三人の学生が、店の前に立って、話をしていました。
「Hは天才だね。なにをうたってもうまいじゃないか。」
「わけても、エレジーものはね。」
「あれで、美しいと申し分ないがな。」
「いや、目に魅力があるよ。」
「よせやい。顔だって、声だって、Kが一番さ。」
学生たちは、いわゆる芸術家を、芸者かなどのように、品定めしているのでした。秀吉はびっくりしたというより、あてがちがって、別の世界へ飛びこんだごとく、後悔が先に立ち、とまどいしてしまいました。
あわれな彼は、ひそかに、KとHの、若い映画女優の写真を見くらべたり、また、派手な洋服姿をした人気作曲家の写真などを取り上げて、
「ああ、これが、ほんとうの芸術家というものなのか。」と、いままでの、自分の愚かさを恥じながら、茫然と見つめていました。
そう考えると、先生の言葉が、いまさらのごとく頭に浮かんだりして、なんのために、自分は、こんなところへきたのだろうかと、いくたびとなく後悔されました。