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そのとし

その年

宮本 百合子

「宮本百合子選集 第五巻」安芸書房、1948(昭和23)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,964 字 · 28 页

青空文庫

「…………」

「いいか」

「ああ」

云いたいことは詰っていて、両方の肩にみがいって来るのがわかるほどだのに、いざとなると、お茂登には、体を大事にしろとより繰返す言葉が見つからないのであった。その気持は源一にしても同じらしく、親子は暫く不器用に言葉のつぎ穂を失った。

沈黙はどちらからともなく解れ、お茂登はいかにも助け合って商売をして来た総領息子に向う口調で、

「さっき、学校で、佐藤さんが、トラック四千円なら会社へ売ってもいいと、お繁さんにことづけよこしたで」

そして、いくらか平常の気分に戻って、

「四千円なら悪うあるまい。うちのも、広治が入営してしまったら、いっそ売ってしまうか」

と、思いつきのように云った。

「運転手に給料払ったら、とてもこれまでのようにはいけんし……」

半年先に、次男の広治の入営も迫っているのであった。

「そりゃおっ母さんの考えでどうでもいいが……。あとになって買いかえるというのもことだろう。車庫へ吊っておけば結構二年三年はもてる」

こんなことも、云って見ればもう今日までにすっかり話しつくされたことである。階下で九時を打つ音を数えて聞いたとき、お茂登は、