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そのきどをとおって

その木戸を通って

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1959(昭和34)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,448 字 · 44 页

青空文庫

「ふさとの結婚も、田原が熱心にすすめたから承知したのだ」と勘解由は云った、「そこをよく考えて、これからのち家中のもの笑いにならぬよう、しっかりやらなければいけないぞ」

正四郎は黙って辞儀をした。

ふさとの生活は順調にいった。勘解由は城中に寝泊りしていたが、十日に一度くらいの割で訪ねて来、ごく稀に泊ってゆくというふうであったが、十日に一度が七日に一度となり、夏のころには五日め三日めと、だんだん訪ねて来る度数が多くなったし、泊ってゆく例も多くなるばかりだった。――口には出さないが、よほどふさが気にいったようすで、来るとふさを側からはなさず、夕餉のあとで酒を飲みだしたりすると、酌をさせながらいい機嫌に話し興じて、寝るのも忘れるというようなことさえしばしばあった。

「父上、もう四つ半(十一時)を過ぎましたよ」とがまんを切らして正四郎が云う、「朝が早いんですからこのくらいにしておいて下さい」

「おれに遠慮するな」と勘解由は手を振る、「おまえは構わず寝てしまえ、おれはもう少し飲むからふさは借りて置くぞ」

ふさは特にもてなしがうまいというわけではない。背丈のやや高い躯つきも、剃りあとの霞んでいるような眉や、ふっくりとくびれた顎のめだつ顔つきも、おっとりとしめやかで、立ち居や口のききかたは、むしろ間伸びがしているといっても