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そのきどをとおって
その木戸を通って
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1959(昭和34)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,448 字 · 44 页
お母さまはと訊くと、梅林のほうを指さして、「あっち」と云う。それで梅林のほうを見てまわったがいない。家の中を捜し、屋敷まわりを捜しているうちに日が昏れ、それでも姿がみえないので、吉塚は本街道、家士たちは山街道と、手分けをしてつぶさにしらべた。――山街道のほうは領境に番所があり、そこで訊いたが、ふさらしい女性の通ったのを見た者はなかった。本街道のほうは下宿と上宿、本宿まで、馬、駕籠の問屋はもちろん、旅館をぜんぶ当ってみた。しかしその道は人馬の往来がはげしいので、はっきりしたことはわからなかった。
吉塚は役人に頼み、街道の上下十里に手配をしてもらったが、ついにふさの姿はみつからなかったという。田原権右衛門はさらに遠くまで手を打ったらしいが、ふさは金を持っていないし、女の足でこれだけすばやい手配の先を越せる筈はないので、三日も経ったいまでは、まずみつかる望みはないだろう、と吉塚は語った。
「じつは一つだけ、申上げなかったことがございます」と語り終ったあとで吉塚が云った、「奥さまが初めてここへみえたときのことですが」
正四郎は家扶の顔を見た。
「あれは貴方を訪ねて来られたのではなかったのです」