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あじさい
たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集
佐藤 春夫
佐藤春夫『たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あじさい、幽香嬰女伝、化物屋敷、緑衣の少女、私の父が狸と格闘をした話、幽明、柱時計に噛まれた話。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,277 字 · 84 页
それで、私の父はうちに人力車もあったけれども、天気のいい日や非常にいそぐ時などにはよく自転車へ乗った。
初めのうちは人が大へん珍らしがった。――父が或るところを自転車で走っていたら「あれ、あれ、あれ」と大きな声でびっくりして呼ぶ者がある。ちらと見ると、道の片わきに低い石垣があってその向うに、お爺さんとお婆さんとが日向ぼっこをしていたそうだが、このお爺さんとお婆さんとは自転車へ乗っている私の父の腰から下が石垣で見えないで……それに自転車というものも見たことがなかったので、飛ぶように行き過ぎる人間を見て天狗でも見つけたようにびっくりしたのだろう。私の父はそう話をしたこともある。それからこれは、紀州新宮でのことではなく、北海道の十勝川の沿岸にある私の父の農場に近い村でのことであるが、そこでも自転車が、そのころ大へん珍らしかったそうである。その農場の用事で私の父がそこへ行った時にもやはり自転車を持って行った。広い野原の道を、私の父が自転車で行くと向うの方から学校がえりの村の子供たちが来た。驚いて自転車の上の父を立ちどまって見て居たが、通りすぎると後からついて来ながら、子供の一人は、