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あじさい
たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集
佐藤 春夫
佐藤春夫『たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あじさい、幽香嬰女伝、化物屋敷、緑衣の少女、私の父が狸と格闘をした話、幽明、柱時計に噛まれた話。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,277 字 · 84 页
(5)
かえっているのであった。
(5)
Nさんが現場から帰った次の日の午後三時ごろであった。ポス(というのは三郎が泥んこの見すぼらしいのをどこからか連れて来た番犬です)がやかましく吠え立てると思ったら、裏口に見知らぬ男が、表札をたしかめて立っていたのが、ピアノの調律に来た者だと入って来た。そう云われてみると、三郎が山に出かける前に、留守の間にゆるんでいるキイをしめ直させて置いてくれ――帰ったらすぐ弾けるように。とくれぐれも云い置いたのを遭難騒ぎで、すっかり忘れていたのをやっと思い出した。
「いつもお屋敷に伺わせていただく者は生憎とよそさまへ伺う手順になって居りましたので、代理に手前が参上いたしました――お急ぎのご様子でしたので」
と云って、ピアノの在り場所をたずねるから夫人は自身で(と云うのは女中を使っていないから)この男を応接間に案内して、彼がキイを緊めたりゆるめたりしているそばから、
「忘れていて電話は家からはかけませんでしたが、せがれが自分であなたの方へ電話したものでしょうか」
「さあ、ご用は電話係の者が承りましたので、わたくしが直接でございませんからどなたさまのお電話でございましたものやら」