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あじさい

たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集

佐藤 春夫

佐藤春夫『たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あじさい、幽香嬰女伝、化物屋敷、緑衣の少女、私の父が狸と格闘をした話、幽明、柱時計に噛まれた話。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,277 字 · 84 页

青空文庫

目がさめたついでに便所へ立とうとするが、臆病者のわたくしはまだしばらく不気味で様子をうかがっていたが、いよいよ立って行ってみたが、別に異状もなかったが、それにしてもあの一撃は何であったろうか。この宿の一室はもしや怪異のある部屋かも知れない。見かけは明るいよい部屋だが、怪異のある部屋というのは、昼間などは案外明るいものだがなどと語り合ったことであった。そうして無事家に帰ってみると、五十数年、中学一年生以来の旧友が歿して三十日に郷里で告別式がある旨の電報が留守宅にわたくしを待っていた。

この友人はわたくしの祖先の地の出身であったせいか数多いクラスメートのなかから特にわたくしに親しみ、後年はわたくしのよい愛読者として交誼をつづけていた。年齢はわたくしより二つ三つの年長であったが先年細君を失って以来めっきり老衰して、常に心細い手紙などをよこし、告別式場では是非とも足下に追悼文を読んでもらいたいなどと云って来ていたものであった。昨年の初夏、鉄道がわが郷里の方へ全通したというので帰郷した時など彼は勤務先の和歌山市から数時間の旅をわざわざわたくしに会うために出かけて来たものであった。