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しゅんきんしょう
ちくま日本文学014 谷崎潤一郎
谷崎 潤一郎
谷崎潤一郎『ちくま日本文学014 谷崎潤一郎』。同一底本的分册已合并为一书。收入:春琴抄、吉野葛。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 85,196 字 · 169 页
往来には軒先に莚を敷いたり、箕を置いたりして、それに消炭が乾してある。どこかで鍛冶屋の槌の音と精米機のサアサア云う音が聞える。
私たちは町はずれまで歩いて、とある食い物屋の川沿いの座敷で昼食を取った。妹背の山は、あの橋の上で眺めた時はもっとずっと上流にあるように思えたが、ここへ来るとつい眼の前に立つ二つの丘であった。川を隔てて、こちらの岸の方のが妹山、向うの岸の方のが背山、―――妹背山婦女庭訓の作者は、恐らくここの実景に接してあの構想を得たのだろうが、まだこの辺の川幅は、芝居で見るよりも余裕があって、あれほど迫った渓流ではない。仮りに両方の丘に久我之助の楼閣と雛鳥の楼閣があったとしても、あんな風に互に呼応することは出来なかったろう。背山の方は、尾根がうしろの峰につづいて、形が整っていないけれども、妹山の方は全く独立した一つの円錐状の丘が、こんもりと緑葉樹の衣を着ている。上市の町はその丘の下までつづいていて、川の方から見わたすと、家の裏側が、二階家は三階に、平家は二階になっている。中には階上から川底へ針金の架線を渡し、それへバケツを通して、綱でスルスルと水を汲み上げるようにしたのもある。