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しゅんきんしょう
ちくま日本文学014 谷崎潤一郎
谷崎 潤一郎
谷崎潤一郎『ちくま日本文学014 谷崎潤一郎』。同一底本的分册已合并为一书。收入:春琴抄、吉野葛。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 85,196 字 · 169 页
その三 初音の鼓
「やっぱりそれも釣瓶鮨屋と同じようなものじゃないかな。謡曲に『二人静』があるんで、誰か昔のいたずら者が考え付いたことなんだろう」
「そうかも知れないが、しかし僕はちょっとその鼓に興味があるんだ。是非その大谷と云う家を訪ねて、初音の鼓を見ておきたい。―――とうから僕はそう思っていたんだが、今度の旅行も、それが目的の一つなんだよ」
津村はそんなことを云って、何か訳があるらしかったが、「いずれ後で話をする」と、その時はそう云ったきりであった。
その三 初音の鼓
上市から宮滝まで、道は相変らず吉野川の流れを右に取って進む。山が次第に深まるに連れて秋はいよいよ闌になる。われわれはしばしば櫟林の中に這入って、一面に散り敷く落葉の上をかさかさ音を立てながら行った。この辺、楓が割合いに少く、かつひと所にかたまっていないけれども、紅葉は今が真っ盛りで、蔦、櫨、山漆などが、杉の木の多い峰のここかしこに点々として、最も濃い紅から最も薄い黄に至る色とりどりな葉を見せている。ひと口に紅葉と云うものの、こうして眺めると、黄の色も、褐の色も、紅の色も、その種類が実に複雑である。おなじ黄色い葉のうちにも、何十種と云うさまざまな違った黄色がある。