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しゅんきんしょう
ちくま日本文学014 谷崎潤一郎
谷崎 潤一郎
谷崎潤一郎『ちくま日本文学014 谷崎潤一郎』。同一底本的分册已合并为一书。收入:春琴抄、吉野葛。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 85,196 字 · 169 页
九ゥつの、豆の数より
親の在所が恋いしゅうて
恋いしィくば
訪ね来てみよ
信田のもゥりのうゥらみ葛の葉
自分はこの唄にはほのかながら子供の郷愁があるのを感じる。大阪の町方には、河内、和泉、あの辺の田舎から年期奉公に来ている丁稚や下女が多いが、冬の夜寒に、表の戸を締めて、そう云う奉公人共が家族の者たちと火鉢のぐるりに団居しながらこの唄をうたって遊ぶ情景は、船場や島の内あたりに店を持つ町家にしばしば見受けられる。思うに草深い故郷を離れて、商法や行儀を見習いに来ている子弟等は、「親の在所が恋いしゅうて」と何気なく口ずさむうちにも、茅葺きの家の薄暗い納戸にふせる父母の俤を偲びつつあったであろう。自分は後世、忠臣蔵の六段目で、あの、深編笠の二人侍が訪ねて来るところで、この唄を下座に使っているのを図らずも聴いたが、与市兵衛、おかや、お軽などの境涯と、いかにも取り合わせの巧いのに感心した。
当時、島の内の自分の家にも奉公人が大勢いたから、自分は彼等があの唄をうたって遊ぶのを見ると、同情もし、また羨ましくもあった。父母の膝元を離れて他人の所に住み込んでいるのは可哀そうだけれども、奉公人たちはいつでも国へ帰りさえすれば、会うことの出来る親があるのに、自分にはそれがないのである。