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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

聞えは朽ちぬ世語りの

なよ竹山に翁ありけり

なよ竹取の翁ありけり

竹取翁 (合唱にかぶせて)おう、今日もまた夕日が西の方に沈んで行く。……(静かに西の方を仰ぎ)御覧なされ。今日もまた夕日が西の方に沈んで行くのじゃ。……いつものように暗い夜がやって来る。……儂はいつかしらず深い眠りの中にいる。……そして、いつかしらず儂はまたさやかな陽の光のもとに目覚めているのじゃ。……この夢とも現とも知れぬ限りない時の間は一体いつまで続くと云うのじゃろうか? これは、見果てなき常世の夢じゃ。そうじゃ、儂は見果てなき常世の夢に生きている。……お若い方、貴方にはこの儂の姿が見えるのかな? 儂がここにこうして立っている姿が貴方には本当に見えるのかな? あの世語りの竹取翁はこの竹の林の中に生きておりまするのじゃ。讃岐ノ造麻呂はこの通りここにこうして生きておりまするのじゃ。……

翁は文麻呂から数歩離れた所に、まるで石像のように立ったままじっと動かない。日没前の異様な輝耀を竹の緑に反射させて、夕陽が西の方に沈んで行った。文麻呂は何やら不可解な神秘に取り憑かれたように、言葉もなく翁の姿を凝視めている。