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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

それは青々とした竹の林にかこまれて、あんたと一生楽しく暮すことなの。……ああ、だけど、もう駄目。遅過ぎたわ。あたしは、もう、この竹の林を見棄ててしまった。お天道様のおっしゃることに背いて、一旦都へ出てしまったあたしはきっと罰を受けなければならないんだわ。黙ってここでじっと苦しみに耐えて行かなければならないんだわ。……文麻呂! あたしにもどうしてだか分らない。だけどもうあたしの幸福はこれっきりで終ってしまうような気がするの。……あたしはどこにも行ってはいけないんだわ。ここで黙ってひとりで待っていなければならないんだわ。

文麻呂 なよたけ! 何を待っているんだ!……しっかりおし! 何を待ってるって云うんだ! そんなことがあるもんか! そんなことが……

なよたけ (急に烈しく咎めるような調子になり)文麻呂! あんたはあたしがあんな車にのせられて都へ連れて行かれるのをどうして止めてくれなかったの? どうしてあたしが好きになった時、すぐにでも都を棄てて、あたしのところに飛んで来てくれなかったの?……ああ、そうすれば、あたし達はそのままずっとしあわせに暮せたかもしれないのに!