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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

一切を捨てて恋に酔いたまえ。

清原 有難う。

文麻呂 敷島の日本の国に人二人ありとし念わば何か嘆かむ、だ。……………知ってるかい、清原。

清原 む。……万葉、巻十三、相聞の反歌だ。

文麻呂 恋とはああ云うものだよ。僕はそう信ずる。恋とはただ一つの魂を烈しくもひそかに呼び合うことだ。僕はそう信ずる。あの巷にあれすさんでいる火遊びの嵐はどうだ。あんなものは何が恋だ。あんなものは不潔な野合だ。……汚らわしい惰遊だ。

清原 石ノ上、……僕の場合に限って、あんな汚れた気持は微塵もないって云うこと、……君、信じてくれるだろうね?

文麻呂 うん。信じる。信じよう。信じないではいられないのだ。君が本当のものと嘘のものとを識別ける眼を持っていることだけは、僕は心から信じているんだからな。

清原 (次第に涙を催すような感傷的な気持になって行く)………石ノ上、僕は、そのうちに君にもあの女に一度逢ってもらおうと思ってる。

文麻呂 何て云うの? 名前は。

清原 ……なよたけ。

文麻呂 え?

清原 なよたけ。(舞台左手奥の竹林の方を指し)あすこの竹林の向うに住んでいる………

二人共、そっちの方を眺めている。