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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

文麻呂 (夢から醒めたごとく徐ろに眼を開き、うっとりと)ああ、なよたけはこの世の奇蹟だ! 月の世界から送られて来た清らかな魂の使者だ! 俺はなよたけがこの世に生きていると云うことを思うだけで、この上もない生き甲斐を感ずるんだ。……清原と云う奴は実にしあわせな奴だよ。なよたけはあんな奴には勿体ない位だ。……それでも大納言の手に渡るよりはよっぽどましだ。清原にしたって、貴様にしたって、とにかく、生死を誓った俺の無二の親友なんだからなあ……(左の方へ抜足差足で逃げて行く小野ノ連に気がつき)おいッ! どこへ行くんだ!

小野 (ぎくんとして立止る)

文麻呂 どこへ行くつもりなのだ!

小野 (意を決したように、悲壮な顔)石ノ上! 俺は失敬する! 君を見棄てるのは忍びないが、俺は気違いと行動を共にするのはまっぴら御免だ! 君がなよたけの唄と聞いているのは、あれは山籠りに行く行者どもの呼ばい声だぞ! 君が小鳥の声と聞いているのはあれは鈴の音だ! 君は気が狂っているんだ! 恋のために気が狂っているんだ! 君とはもう今日限り絶交だ! 清原だってもう君とは手を切ったぞ! 都中の人達はみんな君のことを気違いだと云ってるんだ! 君なんかと交際ってたら、俺達はどんな眼に遭わされるか分りゃしない! とんだ「人笑え」