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はたしじょう
はたし状
山本 周五郎
「週刊朝日 新年増刊」朝日新聞社、1951(昭和26)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,525 字 · 39 页
「藤島は侮辱を受けなかったでしょうか、わたくしは数日まえに初めて聞きました、それも和田の弟から聞いたんです、あなたがお帰りになってから今日まで、わたくしの口からは申せないような、ひどいひどい蔭口や根もない謗りを、藤島はなにも云わずにがまんしていました、侮辱を耐え忍んでいたのは藤島でございます」
「お待ちなさい、私が彼になにをいったというんです」
「なにをですって、なにをいったかと仰しゃるんですか」
しのは激しく第二の眼を見つめた。それから突然ああと低く叫び、深く息をひきながら、独り言のように呟いた。
「やっぱり、……やっぱりそうでしたのね」
それは予想していたことが事実だったという響きをもっていた。第二を見つめているしのの眼が急にうるみ、挑みかかるような言葉つきが柔らかく顫えてきた。
「わかりました、そのお眼で、わたくしよくわかりました、蔭口をきいたり、人を謗ったりすることは、あなたにはおできになれませんわ、第二さまには、……そして藤島にも決してそんなことはできません、決して、……それは第二さまが御存じの筈です」
彼は黙っていた。しのは続けた。
「悪いのはお二人のほかの或る人間です、その人間がお二人をこんなふうにしたんです」