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はたしじょう

はたし状

山本 周五郎

「週刊朝日 新年増刊」朝日新聞社、1951(昭和26)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,525 字 · 39 页

青空文庫

五

「彼はいつも云っている、あれで誰にも恥じず、平気で高禄をいただいているとすれば……いや、おれにはそのあとは云えない」

千久馬はやりきれないという手振りをした。

「それに口から口へ伝わると、言葉には尾鰭が付くものだ、問題はどんなことを云ったかではなく、この状態をこのままにしてはおけない、早急にどうにかしなければならないということだ」

「――彼はおれの婚約を毀した」

第二の独り言はこんどは千久馬にも聞えた。

「――彼はおれからあの人を奪った」

「だからこそ彼は第さんを除こうとするんだ」

「――彼は二十年の友情を裏切った」

「しかも今でも親友だと人にはいっているよ」

ふいに第二は立停った。そして千久馬の顔を正面に見た。まるでそこに英之助を見るかのように。それから低い声で震えながら云った。

「済まないがおれを独りにして呉れ、……二、三日したら、たぶん、訪ねてゆくよ」

そして千久馬の返辞は待たずに、泉亭の長い築地塀に沿って、伊※(「田+比」、第3水準1-86-44)川のほうへ大股に去っていった。

五

その翌晩であったか、夕餉のあとで第二は父の部屋へ呼ばれた。母が茶を持って来たが、なにか遠慮するふうですぐに去った。