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はたしじょう

はたし状

山本 周五郎

「週刊朝日 新年増刊」朝日新聞社、1951(昭和26)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,525 字 · 39 页

青空文庫

不意をつかれたが、第二はそれほど意外ではなかった。……こちらを見る英之助の眼は静かで、おちついた沈着な色をしていた。第二はきわめて自然に微笑がうかんだ。

「あんまり遅いんでこれを迎えに来たんだ」

英之助はなに事もなかったような声で、そう云った。それから第二が坐るのを待って、「さっぱりして呉れたかい」

第二は云いように困った。それで、そこにあるはたし状を取って、行燈の火をつけ、燃えだすのを火桶の上へ差出した。そしてその小さな焔を眺めながら、「これが救いの神になったというのは、いかにも皮肉すぎる」

「こういうものは本気で書くからね」

第二は頭を垂れて頷いた。英之助には彼の気持がよくわかるらしい、「いやな事はみんな忘れるんだ、なにもかも」そう云いかけて、燃え尽きようとするはたし状の煙に咽せたものか、咳をしながらつと顔を脇へ向けた、「――もちろん、千久馬のこともだよ、彼のことは彼に任せておけばいい」

こんども第二は頷いただけだった。これでいい、なにも足りないものはない、礼は云いたいがその必要もないだろう、――有難う英さん。すっかり灰になったのを火箸で崩しながら、第二は心のなかでそう呟いた。