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ひとでなし

ひとでなし

山本 周五郎

「講談倶楽部」1958(昭和33)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,484 字 · 38 页

青空文庫

四

男がものやわらかに云った、「こいつは手の早い野郎だからな、おれがやらなければおれのほうでやられるところだったんだ」

吉の字と呼ばれる男は、口の中で低く呟いていた、「なんてえひでえことを、――」

四

津ノ正の康二郎は珍しく酔っていた。

祝いに招いた客はみんな帰り、おつねもおみつもいなかった。この店をしまうので、おつねは水戸へ帰ることになり、おみつは浅草のほうに勤め口をみつけていた。それで、おつねは業平のほうにいる遠い親類の家へ泊りにゆき、おみつは浅草の新しい店へ移っていったのである。康二郎は酔った眼で、店の中をゆっくりと眺めまわした。店は片づいていた。おつねとおみつとが、客たちの飲み食いしたあとを、ざっと片づけていったから、その四帖の小座敷には、かれら二人の膳が並んでいるだけであった。

「おつねは水戸へ帰ったら髪結をするんですって」とおようが話していた、「あたしもこの一年ばかりはずっとあの人に結ってもらってたんですよ、小さいときから髪をいじるのが好きだったっていうし、きようだからきっとやっていけますよ」

「酔ったようだが、もう少し飲みたいな」