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ひとでなし
ひとでなし
山本 周五郎
「講談倶楽部」1958(昭和33)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,484 字 · 38 页
と呼ぶ声がした。康二郎は歩きながら振返った。するとすぐそこに、頬かぶりをした背の高い男がいるのを認めた。
「私ですか」と彼は訊いた。
「津ノ正の旦那ですね」と男が問い返した。
康二郎は立停り、男も立停った。康二郎はおちついて相手を見、相手はちょっと頭をさげた。
「うろんなまねはしません、旦那に話があるんです」と男は云った、「送りながら話しますから、どうか歩いておくんなさい」
「おまえさんどなたです」
「どうか歩いておくんなさい」と男は云った、「話しているうちにわかりますよ」
康二郎は歩きだし、男もその左側に並んで歩いた。
「いい人ですね、あのおようさんという人は」と男が云った、「旦那には悪かったが、いまの話をみんな聞きました、ええ、勝手にいて聞いたんです、旦那の仰しゃることも、おかみさんの云うこともみんな聞きましたよ」
「どうしてまた、勝手なんぞに」
男は康二郎を遮って云った、「そいつもあとで云いますが、さきにこっちから訊かして下さい、旦那は、あの人を諦めやあしないでしょうね」
康二郎はなにか云おうとしたが、思い直したように口をつぐんだ。