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ひとでなし

ひとでなし

山本 周五郎

「講談倶楽部」1958(昭和33)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,484 字 · 38 页

青空文庫

ことにします」

「慥かでしょうね」

「私は十六年まえのことも話した筈です」

「ええ聞いていました、ええ」と吉次は頷いた、「聞いていて、あっしは、もういちど人間に生れてきてえと思いました」

吉次はまた手の甲で眼を拭き、それではこれで別れる、と云った。康二郎はひきとめた。もっと詳しいことが聞きたい、私の店までいっしょに来ないか、とひきとめたが、吉次は首を振った。

「もう話すことはありません、それに力の野郎が待ってますから」と吉次は云った、「旦那には云わねえが、あいつは今夜、大事ななかまを一人あやめたんです、牢ぬけを助けてくれた、いわば負目のあるなかまでした、それもありこれもあって、あっしは野郎を片づける気になったんです、ただどうか、諄いようだがおようさんを仕合せにしてやっておくんなさい」

康二郎は頷いた、「おようのことは念には及ばないが、おまえさんがあの男を手に掛けなくとも、ほかになにか」

「ありません」と吉次は手を振って遮った、「役人に渡せば野郎の名が出ます、そうすればまたおようさんがかわるでしょう」

康二郎は黙った。

「決して仕損じのねえようにやりますよ」