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ひとりすもう
ひとりすまう
織田 作之助
「海風 第三号」1938(昭和13)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 40 页
を楽しんでいる様だった。美少年は、ぼくらの姿を見ると、「トシちゃん、又来る」といって、右肩を下げ、棒切れの様な貧弱なステッキをひきずりながら出て行った。ソーダ水を註文すると彼女は喀血した人にはソーダ性のものは毒だ、紅茶にしなさい、と言った。ぼくはその親切がありがたかった。紅茶を選ぶと、その店の少女はレコードをかけ、首をかしげて聴き惚れていた。百合の花の匂いが漂うていた。ドアのカーテンの隙間から一筋の明るい太陽の光線がはいっていた。その隙間から海が見えた。そんな雰囲気の中でぼくは、彼女から、あの晩の男と彼女との関係を訊き出すことに成功したのだ。彼女の話はその雰囲気に適わしいものとは言えなかったが。
彼女の語るところによると、轡川というその男は彼女――明日子という――の夫と同郷の者、当時大阪の私立大学の学生だったという。医科大学の助教授である彼女の夫が肺を患って寝こんでしまった時、他に男手のない二人暮しの家が物騒だというので、柔道部の選手をしていた轡川に言わば用心棒代りに寝泊りしてもらうことにした。明日子はその轡川に暴力で辱しめられた。柔道部の選手をしている位だから力は強かったとはいえ、防げば防げぬことも無かったが下の部屋で寝ている重病の夫を驚かして神経を興奮させることを怖れたので、声一つ立てられず、暴力に