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ひとりすもう

ひとりすまう

織田 作之助

「海風 第三号」1938(昭和13)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 40 页

青空文庫

だがもしぼくが咳をすれば、轡川はぼくが今みじめな気持のまま眼覚めていることを知って、何か勝ち誇った様な快感を覚えるかも知れないと思うと、あるいは轡川は、ぼくにそんな気持を起させるためにわざとぼくに宿を変わらせたのではなかろうか、とすら考えられて、必死になって咳を堪え、ぼくが眼覚めていることを知らすまいと努力した。だが、ぼくの様に肺を患っている男にとっては咳をこらえることは、窒息しそうになる位苦しいものだった。

その夜が明けて朝食前。明日子が湯に行った隙に轡川はぼくの部屋に来て、未だ寝床の中にはいっているぼくの枕下に坐ると、にこにこしながら、

「あなたは非常に魅力のある風貌をもっている。明日子がそう言ってましたよ」といった。ぼくは表情に困った。というのは、明日子にそういわれていることが些か嬉しくもあり、又照れたのだが、轡川が明日子の事など言い出したのはどういうつもりだろうと、考えると、うっかりした表情も出来まいと思ったからなのだ。それでなるべく苦い顔をする様にしていると、彼は、

「いや、ぼくは昨日一日ですっかりあなたに惚れこんでしまいましたよ。尊敬といってもいい位です。