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もののいえないもの
もののいえないもの
小川 未明
「大毎コドモ」1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,387 字 · 9 页
「くもという虫は、りこうなものですね。平生は、おくびょうですぐ逃げるくせに、子供を持っているとなかなか逃げないで巣の中にじっとして、子供をまもっていますよ。かわいそうだから、その草をぬかずにおきました。」と、話しました。
「きっと、くものお母さんでしょう。くもにも母性愛というものがあるのでしょうね。」と、お母さんがおっしゃいました。
そのとき、敏ちゃんは、のき下にかかっているかごの中の、きりぎりすを見あげていましたが、
「きりぎりすにもお母さんはあるの?」と、ききました。
「それは、あるわよ。敏ちゃん、逃がしておやりよ。」と、姉さんがいいました。
「かわいそうだから、僕、いやだ。」
「かわいそうだから、逃がしてやるのよ。」
「雨がふったり、風が吹いたりするじゃないか。」
「それはしかたがないわ、やぶの中に住んでいるのだもの。それよりか、こんなせまいかごの中に入れておくほうが、よっぽどかわいそうだわ。」
姉さんと敏ちゃんとは、そんなことをいいあっていました。
「もっと大きなかごに入れてやればいいんだ。」と、兄さんがいいました。
「だんだんきゅうりがなくなるから、それより逃がしてやったほうがいいでしょう。