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もののいえないもの
もののいえないもの
小川 未明
「大毎コドモ」1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,387 字 · 9 页
」と、お母さんがおっしゃいました。
敏ちゃんは、くもの話から急に自分のきりぎりすが問題になったのが、わからないような、理由がないような気がしましたが、考えているうちにだんだん、こうしてきりぎりすをかごの中に入れておくことは、よくないように思われたのです。
「逃がしてやったら、お母さんにあえる?」
「それは、わからないけれど、きっとよろこぶにちがいありません。」
とうとう、敏ちゃんは、かわいがっていたきりぎりすを、明日逃がしてやることにしました。あくる日は日曜日だったので、姉さんと二人でとおくの田んぼへ持っていって、人に捕らえられないような、また近くにきゅうりの畠のあるようなところへ放してやることにきめました。
「そうものがわかると、敏ちゃんはいい子です。」
「ほんとうにいい子よ。」
「いい子だわね。」
そのとき、敏ちゃんは、お母さんにも姉さんにもほめられました。こんなことは、めったにありません。しかし、あまりうれしくはなかったのです。
いよいよあくる日となって、きりぎりすを逃がしてやりました。所は、徳ちゃんがへびを見たという近くの草やぶでした。さいしょ、かごの中からきりぎりすを出してやると、よろこんでとんでいくと思いのほか、じっとして草の葉の上にとまって動きませんでした。