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わがせいしんのしゅうい

わが精神の周囲

坂口 安吾

「群像 第四巻第一〇号」1949(昭和24)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,670 字 · 32 页

青空文庫

「ママが乳癌と診断されて一晩泣き通していたじゃないか。手術をするんだぞ」

と、大変な見幕であったが、愛妻家の大井広介が奥さんの乳癌にテンドウしたのは当然であろう。私は乳癌を癌のうちでは最も治療の容易なものと見くびっていたが、長畑さんの話をきいてみると、なかなかもって一筋縄では行かないシロモノであるらしい。私はお乳へラジュームを当てるか、切るにしても、ちょッと一部分と思っていたが、殆んど胸半分を切るのだそうな。

大井広介が陽子ちゃんを迎えに来たその日までは、私の記憶がハッキリしているのである。警察の保護室に一晩とめられて、出たこと。その三日目か四日目に、檀一雄の家へ行って、敷地を調査したこと。それまで檀一雄は三夜にわたって、私を訪ねてきて、彼の家の真向いに、私の家をつくるという件を、説服したのである。その日まで、夢にも思わなかったことを、彼の強引な口説によって、にわかに私もその気になってしまったのである。

この期間に、私の記憶のぼけているのは石川淳が見舞いに来てくれたことだけだ。これは、すでに私がお酒で酔っ払ったところへ、彼が来たせいである。檀一雄のウケウリで、今度は私が石川淳も我々の部落に家をつくることを説服した。