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アド・バルーン
アド・バルーン
織田 作之助
「新文学」1946(昭和21)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,390 字 · 53 页
浜子は継子の私を苛めた罰に父に追いだされてしもうたと言うのですが、私は父がそんなに自分のことを思ってくれているとはなぜか思えなかった。
浜子がいなくなって間もなく、一家はすぐ笠屋町へ移りました。周防町筋を半町ばかり南へはいった東側に路地があります。その路地の一番奥にある南向きの家でした。鰻の寝床みたいな狭い路地だったけれど、しかしその辺は宗右衛門町の色町に近かったから、上町や長町あたりに多いいわゆる貧乏長屋ではなくて、路地の両側の家は、たとえば三味線の師匠の看板がかかっていたり、芝居の小道具づくりの家であったり、芸者の置屋であったり、また自前の芸者が母親と猫と三人(?)で住んでいる家であったりして、長屋でありながら電話を引いている家もあるというばかりでなく、夜更けの方が賑かだという点でも変っていて、そして何となく路地全体がなまめいていました。なまめいているといえば、しかし、引っ越しの日に手伝いに来ていた玉子という見知らぬ女も、首筋だけ白粉をつけていて、そして浜子がしていたように浴衣の裾が短かく、どこかなまめいているように、子供心にも判りました。玉子はあと片づけがすんでも帰らぬと思っていると、そのままずるずるにいついてしまって、私たちの新しい母親になりました。