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アド・バルーン

アド・バルーン

織田 作之助

「新文学」1946(昭和21)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,390 字 · 53 页

青空文庫

、頭を眼鏡という髪にゆって、襟に豆絞りの手拭を掛けた手古舞の女が一人、どっと押しだされてよろよろと私の店の上へ倒れかけました。私は商品を汚されてはという心配から、思わずはっと抱きかかえて、ふとみると思いがけない文子の顔。文子はおやとなつかしそうに、十吉つあんやおまへんか、久しぶりだしたなアと、さすがに笠屋町の上級生の顔を覚えていてくれました。文子はそのころもう宗右衛門町の芸者で、そんな稼業とそして踊りに浮かれた気分が、幼な馴染みの私に声を掛けさせたといえましょうが、しかし、私は嬉しかった。と同時に、十年前会った丁稚姿、そして今夜は夜店出し、あたりの賑いにくらべていかにもしょんぼりしている自分の姿が、恥じられてならなかった。

私はすぐまた踊りの群といっしょに立ち去って行った文子の後ろ姿を見送りながら、つくづく夜店出しがいやになったばかりか、何となく文子のいる大阪にいたたまれぬ気がしました。極端から極端へと走りやすい私の気持は、やがて私を大阪の外へ追いやりました。そして三年後には「自分を見出した」という言い方をもう一度使いますと、流れ流れて南紀の白浜の温泉の宿の客引をしている自分を見出しました。