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アド・バルーン

アド・バルーン

織田 作之助

「新文学」1946(昭和21)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,390 字 · 53 页

青空文庫

文子は女中と二人暮しでもう寝ていましたが、表の戸を敲く音を旦那だと思って明けたところ、まるで乞食同然の姿をした男がしょぼんと立っていたので、びっくりしたようでした。しかし、やっと私だということが判ると、やはりなつかしそうに上げてくれました。ところが、私が大阪から歩いてわざわざ会いに来た話をすると、文子はきゅうに私が気味わるくなったらしく、その晩泊めることすら迷惑な風でした。私はそんな女心に愛想がつきてしまう前に、自分に愛想をつかしました。思えばばかな男だった。ところが、ますますばかなことには、苦しいその夜が明けて、その家を出る時、私は文子に大阪までの旅費をうっかり貰ってしまったのです。東京の土地にうろうろされてはわてが困ります、だから早く大阪へ帰ってくれという意味の旅費だったのでしょう。むろん突きかえすべき金だった。いやばかにするなと、投げつけてこそ、私も男だった。それを、おめおめと……、しかし、私は旅費を貰いながら、大阪へ帰ったら、死ぬつもりでした。そんなものを貰った以上、死ぬよりほかはもう浮びようがない。もう一度大阪の灯を見て死のうと思いました。