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アンゴウ

アンゴウ

坂口 安吾

「サロン別冊 特選小説集・第二輯」1948(昭和23)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,249 字 · 23 页

青空文庫

に打ちひしがれて放心した。

然し一つの記憶がうかんでくると、次第に一道の光明がさし、ユウレカ! と叫んだ人のように、一つの目ざましい発見が起った。

この本をとりちがえたのは、矢島自身なのだ。矢島は神尾にこの本を貸していたのだ。そのうちに、神尾もこの本を手に入れた。矢島に赤紙がきて、神尾の家へ惜別の宴に招かれたとき、かねて借用の本を返そうというので、数冊持って帰ってきたが、その一冊がこの本だ。そしてその本を探しだすとき、二人はもう酔っていて、よく調べもせず、持ってきた。その時、たぶん間違えたのだ。

そのまゝ矢島は本の中を調べるヒマもなく慌たゞしく出征してしまったから、矢島の本が神尾の家に残ることとなったのである。

★

矢島はたった一冊残っている自分の蔵書のなつかしさに、持参の本はもとの持主の蔵書の中へ置き残し、自分の本を代りに貰って東京へ戻った。

然し、思えば、益々わからなくなるばかりであった。

自分の留守宅にあった筈の、そして全てが灰となってしまった筈のあの本が、どうして書店にさらされていたのだろうか。

罹災の前に蔵書を売ったのだろうか。