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アンゴウ
アンゴウ
「サロン別冊 特選小説集・第二輯」1948(昭和23)年5月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,249 字 · 23 页
たしかに見覚えがあるのです」
「それは記憶ちがいでしょう」
「えゝ、ちゃんとこゝに蔵書印のあるものを、奇妙ですけど、私もたしかに見覚えがあるのです。調べてみましょう」
夫人の案内で矢島も蔵書の前へみちびかれた。百冊前後の書籍が床の間の隅につまれていた。すぐさま、夫人は叫んだ。
「ありましたわ。ほら、こゝに。これでしょう?」
矢島は呆気にとられた。まさしく信じがたい事実が起っている。同じ本が、そこに、たしかに、あった。
矢島はその本をとりあげて、なかを改めた。この本の扉には、神尾の蔵書印がなかった。どういうワケだか分らない。腑に落ちかねて頁をぼんやりくっていると、ところどころに赤い線のひいてある箇所がある。そこを拾い読みしてみると、彼はにわかに気がついた。それは矢島の本である。彼自身のひいた朱線にまぎれもなかった。
「わかりました。こっちにあるのは、私自身の本ですよ。いったい、いつ、こんなふうに代ったのだろう」
「ほんとに不思議なことですわね」
神尾とタカ子はしめし合せてこの本を暗号用に使った。そういう打ち合せの時に、入れちがったのではあるまいか。これぞ神のはからい給う悪事への諸人に示す証跡であり、神尾とタカ子の関係はもはやヌキサシならぬものの如くに思われて、かゝる確証を示されたことの暗さ、救いのなさ、矢島はその苦痛