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アンゴウ

アンゴウ

坂口 安吾

「サロン別冊 特選小説集・第二輯」1948(昭和23)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,249 字 · 23 页

青空文庫

神尾夫人は再会をよろこんで酒肴をすゝめたが、夫人もともに杯をあげて、その目に酔がこもると、いかにも生き生きと情感に燃えて、目のある女の美しさ、それをつくづく発見したような思いがした。

神尾夫人は元々美しい人であったが、目のないタカ子にくらべて、なんという生き生きとした距りであろうか。然し、この生き生きとした人が、自分と同じように、神尾とタカ子に裏切られている被害者なのだと考えると、加害者のみすぼらしさが皮肉であり、わが現実がまことに奇妙にも思われた。

タカ子が単なる失明にとゞまらず、子供たちと同じように死んでいたら、あるいは自分は今日の機会に求婚して、この人と結婚したかも分らない。ふと、そんなことを考える。そして変に情慾的になりかけている自分に気付くと、思いは再び神尾とタカ子のこと、自分が現にこうあるように、彼らがそうであったという劇しい実感に脅やかされずにいられなかった。

神尾の長女が学校から戻ってきた。もう、女学校の二年生であった。矢島の娘が生きていれば、やっぱり、その年の筈であった。神尾の長女は、生き生きと明るい、そして、美しい女学生になっていた。