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アンゴウ

アンゴウ

坂口 安吾

「サロン別冊 特選小説集・第二輯」1948(昭和23)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,249 字 · 23 页

青空文庫

そう考えると、タカ子の左側ということが、あまり動物の本能めいて、たのしい想像ではなかったが、事実に於て右側では自分自身カッコウがつかないような感じもするから、別に深い意味のない感じの世界から発して、二人の習慣が自然に固定しただけのことかも知れなかった。

ところが戦争から戻ってみると、タカ子は左側へ寄りそったり、右側へ寄りそったり、ねむる時にも左右不定になっていた。然し、それもムリがない。タカ子は失明しているのだから。矢島はそう考えていた。

然し、暗号の手紙から、それからそれへと思いめぐらすうち、矢島はふと怖しいことに気がついて、一時は混乱のために茫然としたものである。

神尾は左ギッチョであった。

★

矢島は復員後、かなり著名な出版社の出版部長をつとめていた。ちょうど社用で、仙台へ原稿依頼にでかけることになったので、仙台には神尾の細君が疎開しており、どっちみち訪問すべき機会であるから、カバンの中へ例の本をつめこんだ。

社用を果してのち、神尾夫人の疎開先を訪ねると、そこは焼け残った丘の上で、広瀬川のうねりを見下す見晴らしのよい家であった。