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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
渡辺温『アンドロギュノスの裔』。同一底本的分册已合并为一书。收入:アンドロギュノスの裔、可哀相な姉、或る母の話、父を失う話、花嫁の訂正、イワンとイワンの兄、恋、勝敗、少女、シルクハット、嘘、象牙の牌、兵隊の死、ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった、遺書に就て、赤い煙突、風船美人、四月馬鹿、十年後の映画界、浪漫趣味者として。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,168 字 · 267 页
――いやいや、こんな風に不器用な云い廻しは決して許されない。第一それではこの話は話にならなくなってしまう……。上品な額や、花車な頤や、さては振分け髪を一束づつ載せた細りとした肩のあたりと云い、瓜二つどころか全く豆と豆との如くと云っても足りない位である。こんなにもよく似た顔が二つ以上も、この世に存在して差閊えないものであろうか! と井深君は思った。
井深君は知らず識らず人々の一番前に出てしまった。そして、どうして井深君にそんな敢為な志が湧き起こったのであろうか、それはただその少女があまりにも自分の恋人にそっくりであったから――と云う理由だけに過ぎない。井深君はその頭の禿げ抜けた主人らしい男に事の顛末を訊ねたのである。頭の禿げた男は井深君の中山帽子やその他の身なりに対して敬意を表しながら可なり丁寧に説明して聞かせた。その少女は夕食のために定食を食べたのだが、食べてしまうと、金入れを紛失くしたと云って代を払わなかったと云うのである。
――二円? それ位の金で、こんな年のいかないお嬢さんにこんな恥をかかせるものではない。僕が払いましょう。」井深君は話が存外やさしい事柄であったのに安心しながら云った。