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アンドロギュノスのちすじ

アンドロギュノスの裔

渡辺 温

渡辺温『アンドロギュノスの裔』。同一底本的分册已合并为一书。收入:アンドロギュノスの裔、可哀相な姉、或る母の話、父を失う話、花嫁の訂正、イワンとイワンの兄、恋、勝敗、少女、シルクハット、嘘、象牙の牌、兵隊の死、ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった、遺書に就て、赤い煙突、風船美人、四月馬鹿、十年後の映画界、浪漫趣味者として。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,168 字 · 267 页

青空文庫

所が、だしぬけに、ここに偶と妙な事が湧いて起ったのです……と、さて、いよいよ僕は僕の身の上にふりかかって来た忌まわしい出来事についてお話しなければならない順序となりました。

ある夜のこと――上海生活が始ってからもうやがて半年は過ぎようと云うある夜、おそくのことでした……いや、未だ宵の口だったかも知れない、それとも夜の明け方であったろうか――何しろ時間の観念はまるでなくなっていた僕でしたから。とにかく戸外は真暗な夜に違いなく、その地下室の倶楽部には美しい吊燈籠が仄明るくともっていました。その夜も僕は云う迄もなく、麻雀に夢中になっていたのですが、僕の相手と云うのは、倶楽部の番人で胡と云う中年の支那人でした。胡は古くからこの倶楽部にいて、因業な、併し物固い(?)そして恐しくばくち運の強い男として知られていました。所が、その夜は流石の彼も僕の為に散々な負け方をして、一文なしどころか手も足も出ない程の莫大な借金をしょわされてしまったのです。彼はしばらく卓の上に顔を伏せてひどく悲しげな、小犬の様な声を洩らして泣いていましたが、やがてふらふらと立ち上って何処かへ出て行きました。