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アンドロギュノスのちすじ

アンドロギュノスの裔

渡辺 温

渡辺温『アンドロギュノスの裔』。同一底本的分册已合并为一书。收入:アンドロギュノスの裔、可哀相な姉、或る母の話、父を失う話、花嫁の訂正、イワンとイワンの兄、恋、勝敗、少女、シルクハット、嘘、象牙の牌、兵隊の死、ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった、遺書に就て、赤い煙突、風船美人、四月馬鹿、十年後の映画界、浪漫趣味者として。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,168 字 · 267 页

青空文庫

その真赤な宝石の色の鮮かさは、真白い滑々の象牙の中に埋まって不気味な迄に生き/\として――何故かそんな感じがしました――燦っているのでした。そして、その裏面には何処の国のとも、僕にはさっぱり解らない象形文字みたいなものがべたに彫りきざまれてありました。僕はこの全く思い設けぬ掘出し物にホクホクと喜んでしまいました。可笑しなもので、すっかり大金持になった気持の僕はそこで、急に日本へ帰りたくなり出したのです。そうして、一端そう思い立つともう矢も楯もたまらなくなって、恰度その日から一週間目に出る便船で、出発つことに決めてしまったものです。

ところが、その愈々たつと云う、三日前の晩でした。冷たい雨が少し強加減に降る晩でした。僕は朝っから手まわりの荷物の始末などしてずうっと晩になっても宿にいました。夜、僕が何処へも出ずに宿におち着いているなんて、ほんとうにめったにない珍しい事でした。ただ一人、部屋に籠って明々と燃えているファイヤープレイスの前に揺椅子をひき据えていました。何故ならば、もう世の中には冬がやって来ていて、大陸の夜気は可成り底冷えがしていましたから。