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チェーホフのたんぺんについて

カシタンカ・ねむい 他七篇

神西 清

神西清『カシタンカ・ねむい 他七篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:チェーホフの短篇に就いて、チェーホフ序説。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,418 字 · 92 页

青空文庫

はわざわざ「喜劇」と銘うってある。これもチェーホフに言わせると「殆どファース」だったのだが、上演の結果はやはり『三人姉妹』と同じ運命をたどったのである。要するにスタニスラーフスキイやダンチェンコほどの人物にも、チェーホフの意図する喜劇というものが、どうしてもつかめなかったものと見える。ここには又もや、大きな「切断」があったと言っていいだろう。

なかでも興味のあるのはロパーヒンという人物の取扱いだ。ロパーヒンは「桜の園」の農奴の小伜からのし上って一かどの商人になり、ついにこの荘園の新しい主人に納まるのであるが、チェーホフのつもりでは、これが『桜の園』という「喜劇」の中心人物なのだった。あんまり彼がこの役を大事にするので、フリーチェのような批評家は、ロパーヒンは実はチェーホフが自分の勝利の歌を托したものに他ならないとまで極言するに至った。事実チェーホフの手紙の中には、自分が父祖代々骨身にしみこんでいる奴隷根性をしぼり捨て、ついに精神的自立と教養をかち得たことを、妙に興奮した調子で、誇らしく述べ立てている一節がある。それを思い合せれば、フリーチェ流の推量の成り立つ根拠は一応ないでもなかろうが、今は差当ってそれが問題なのではない。