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チェーホフのたんぺんについて
カシタンカ・ねむい 他七篇
神西 清
神西清『カシタンカ・ねむい 他七篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:チェーホフの短篇に就いて、チェーホフ序説。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,418 字 · 92 页
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しかしチェーホフは、自分が冷たく見えることを怖れる。相手を退屈させることを怖れ、自分の退屈ももちろん怖い。この窮地に追いつめられたチェーホフは、頗る困難でもあれば嘘をつく可能性も多分にある「自己」という主題をたくみに避けて、誠実で安全な一般論に突入するのだ。――自分の破産を白状するのは容易なことじゃない。まっ正直にやるのは辛い、おそろしく辛い。だから僕は黙っていたのだ。ねがわくは僕のなめたような苦しみを、誰もなめずに済みますように……と、『無名氏の話』(一八九三)の主人公は語る。この言葉はチェーホフの手紙についても、有力な自註の役割をはたすだろう。
今ではもう、沈黙の一形式としての彼のお喋りな手紙の正体が、おおよそ明らかになったことと思う。それは正にニーチェの言うように、自己をかくす器であった。従ってまた、チェーホフの正体をさがすためには頗る恰好な場所でもあるわけだ。実際チェーホフの生活は、ほかならぬこの無駄話そのものの中にこそみなぎり溢れているのだ。
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チェーホフの非情についての証拠がためを一応終ったからには、もはやその発生の歴史をたずねる手続きは無用に帰したように思われる。