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ガラマサどん

ガラマサどん

佐々木 邦

「キング」1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页

青空文庫

河野が我輩を見ている」

「…………」

「我輩と河野でなくても宜い。六十七になる社長と血気盛んの青年雇員がエレベーターの中でお互に興味を持って顔を見合っているんだ。若し然ういう場合を描いた絵があったら、君は何と画題をつける?」

「さあ」

「何うだね?」

と社長は例によって自分丈け分っていることを訊く。

「叱る人、叱られる人」

「何だって?」

「先達而のことがあったからでございましょう」

「先達而のことって?」

「エレベーター事件です」

「エレベーターが何うした?」

「エレベーターを止めて、いたずらをした事件です」

「馬鹿だなあ、君は」

「はあ」

と私はもう失策ってしまった。

「あんな瑣々たることを我輩が意に介しているものか?」

「…………」

「我輩はもう疾うに忘れていた。ハッハヽヽヽ」

「しかし河野は覚えていたのでしょう」

「大分見当が違っているよ」

「それじゃ分りません。屑く兜を脱ぎます」

「エレベーター・ボーイを勤めながら苦学をしている河野は我輩が羨ましいのだ。あの年頃で苟くも青雲の志あるものは英雄を崇拝する。我輩も明治十七年に二十一で東京へ出て来た頃、正に然うだった」

「はゝあ」

「途上で大臣なぞが馬車に乗って通るのに行き会うと、立ち止まってよく見たものだ。