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ガラマサどん

ガラマサどん

佐々木 邦

「キング」1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页

青空文庫

松本が二人斯う一尺ぐらい離れて坐っている」

「困りましたな」

「熊野君」

と社長は私に言葉をかけた。

「はあ」

「もっと進み給え」

「はあ」

「矢っ張り二人に見える」

「社長、何うぞお気をつけ下さい」

と私は平伏した。

「心配することはないよ」

「はあ」

「見舞には来ないように」

「はあ」

「容態が心配なら赤石君に訊く」

「はあ」

「四五日静養すれば屹度直る」

と社長は私より一尺ばかり右のところを見詰めていた。

私達は急に閑になった。三日目に、松本君が、

「楽には楽だが、心配だね」

と言い出した。

「気が気じゃないよ」

「考えて見ると僕達の地位は社長の健康が土台になっている。社長が倒れゝば共倒れだ。まさかおっ投り出されもしまいが、もう迚も出世の見込はない」

「この間は重役になれる約束だったがね」

「あんなことは夢の夢だ」

「僕は自叙伝係だから尚お困る」

と私も自分の立場を益※(二の字点、1-2-22)よく理解し始めた。

家へ帰ると、妻が、

「何うでございましたの?」

と社長の容態を訊く。

「未だ出て来ないよ」

「およろしい方ですか?」

「悪くはないようだが、捗らない」

「困りますわね」

「うむ」

と私は一個人の健康に左右される地位の弱味をツク/″\感じた。