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ガラマサどん

ガラマサどん

佐々木 邦

「キング」1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页

青空文庫

折しもあれ、室内のものが一斉に立ち上って姿勢を正した。見ると社長がノッソリ入って来た。私は特別丁寧に頭を下げた。

「熊野君」

と社長が私を呼んだ。

「はあ」

「時間の都合がついたから、これから直ぐに家へ帰る。君も一緒に来ないか?」

「はあ」

「もう仕事は済んだんだろう?」

「はあ。直ぐにお供致します」

と私は大得意だった。室中の視線が私に集注した。

「それじゃ出掛けよう」

「一寸外套を着て参ります」

「玄関で待っている」

と社長は先に立った。

私は社長と同乗で会社を出た。附近の交叉点で一寸の間止まっている中に、電車を待っている社員達が社長を見かけて脱帽した。私が会釈したら、私にもお辞儀をした。虎の威光は借りるまでもなく、側に坐っていると自然に身につく。

「社長」

「何だね?」

「今日は好いお天気でございますな」

「うむ」

「昨日は一日曇りましたけれど」

「朝少し降ったよ」

「はあ。一昨日は一日時雨れました」

「然うだったかね」

「冬初めのお天気は何うも長続きが致しません」

と私は話しているところを見て貰いたさに、大いに努力したのだった。我ながら浅ましいと思ったが、仕方がない。会社員には会社員の本能がある。