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クリティシズムとにんしきろんとのかんけい

クリティシズムと認識論との関係

戸坂 潤

「学芸」1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,091 字 · 50 页

青空文庫

で、すでにこの批評の成果から無関係に翻訳しようと思っても、出来ないように出来ているのだ。R・W・チャップマンの The Textual Criticism of English Classics という短文を見ると、誤植の多いシェークスピアのテキストを好例として取り上げながら、校正論や誤植論のようなものを展開しているが、実際本文の誤植(?)は翻訳者にとってはただの誤植以上の重大さを有つことは察するに難くない。少なくとも原文の誤植は翻訳しようとする時の重大な躓きになる。と共に、又翻訳によって誤植というものは最も丁寧に訂正される機会を与えられるものでもある。

だが翻訳とクリティシズムとの縁故は、もっと論理的な本質のものだ。それは正に認識論的な関係である。翻訳は言語的作品を外国語によって再生すること、或いは複写することであろう。かつて私は「モナリーザ」の複写を見たが、あれは恐らく、鴎外訳のアンデルセン『即興詩人』の場合よりも、原物に近いに相違ない。芸術ジャンルの相違は別としても、作品の古典的権威から云って、現物の「モナリーザ」と現物の『即興詩人』とは較べものにならぬだろう。