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ジャーナリズムざっかん

ジャーナリズム雑感

寺田 寅彦

「中央公論」1934(昭和9)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,682 字 · 21 页

青空文庫

さて、こういう記事を読む読者のほうの頭の中にもやはり同じ物語や小説やから収集したあらゆる類型がちゃんと用意されてあるのだから、新聞の類型的描写が自然にぴったりとこっちの持参の型のどれかにはまり整合する。従ってそれで完全に納得し、満足し、そうして自分では容易にできないのを他人のしてくれた殺人のセンセーションを享楽することができるのである。それがたとえ事実とどれほど離反していても、そんなことは元来加害者にも被害者にも縁故のない赤の他人の一般読者にはどうでもよいのである。「どこかに人殺しがあった」という事実だけが正確でうそでなければ、それ以外の間違いについて新聞社に苦情を持ち込むほど物ずきな読者はまれであろうと思われる。真相が少しわかりかけるころには読者も記者ももうきれいに忘れているのであろう。

そうはいうものの、同じ事件に関する甲乙二つの新聞の記事が、一つ一つ別々に見れば実にもっともらしくつじつまが合っているのに、両方を比較してみるとまるで別の事件のように思われるほどかけ違ったり事がらが反対になったりしている場合も決して少なくはないので、そういう時にはさすが楽天的なわれわれ読者もいくらかの不安と不満を感じないわけにはゆかないようである。