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ジロリのおんな

ジロリの女

坂口 安吾

前半「文藝春秋 第二六巻第四号」1948(昭和23)年4月1日、後半「別冊文藝春秋 第六輯」1948(昭和23)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,597 字 · 102 页

青空文庫

「じゃア、私と大浦先生にきまりがつかなければ、うちへは戻らぬと申したのですか」

と、例のジロリを私の顔にはりつけるように見すくめるから、私はカンラカンラの要領でいと心おきなく笑って、

「いけません、いけません。そんな、お嬢さんを一人前の敵あつかいに対立なさってはいけません。十九という年齢の浪漫精神による童話的創作というものですよ。実際問題はそんなところに有りゃせんです。自分の問題は自分の問題、人の問題は人の問題、これはハッキリ区別があって各々独立独歩のもの、事の真相に於てこの二つが交錯するというのはウソで、これは専ら心緒の浪漫的散歩に属するヨケイ物です。奥さんと大浦先生に属することは、これはもっぱら御二人だけの問題、美代子さんに気がねがあっては、却ってウソというものです」

衣子は大浦との秘密が私どもの目にさらされたということに腹を立てゝいるに相違ない。とりも直さず、その心では私に対して益々イコジにジロリズムに傾く一方である筈であるのに、

「ネエ、三船さん、なんだ、そんな女かとお思いなんでしょう」

こう言いながら、本来ならば、こゝでジロリのあるべきところを、あふれた色ッぽさで、クスリと私に流し目をくれた。