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ジロリのおんな

ジロリの女

坂口 安吾

前半「文藝春秋 第二六巻第四号」1948(昭和23)年4月1日、後半「別冊文藝春秋 第六輯」1948(昭和23)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,597 字 · 102 页

青空文庫

「なんだか、あてつけられているようだな」

こういう時には、ヤス子はいつも返事をしない。

「私の心は、浮気です。そして、私の浮気の心を縛りつけてくれる鎖となるような、大きな力が知りたいのです。欲しいのです」

ヤス子の目に浮気の光は見ることができない。然し、誰よりも浮気であるかも知れないことを、私もたしかに信じていた。

ヤス子はダンスホールの喧噪の中でも、いつもと変らぬ自若たる様子である。他に無数の踊り狂い恋い狂う人々があることに、目もくれる様子がなかった。それは、そういうことに無頓着なわけではなくて、そういうものゝ最高を見つめ、そのためには、いつ何時でも身をひるがえして飛び去る用意ができているから、という様子でもあった。

「今日は泊りにつれて行って」

と、ヤス子はハッキリと申しでる。その目に色情の翳が宿っていないものだから、私はヤス子の無限の色情、浮気心に圧倒されてしまうのだった。

私はヤス子が妖婦に見えた。これが本当の妖婦だと思うようになっていた。

★

失踪の二人は金を費い果して帰って来た。

美代子はわが家へ帰ることができず、先ず私の会社へヤス子を訪ねてきたが、ヤス子をみると力が尽きて、倒れてしまった。