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ズラかったしんきち
ズラかった信吉
宮本 百合子
「改造」1931(昭和6)年7~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页
開けっぱなしにした戸からチャラチャラ、幾挺ものマンドリンが練習している音がする。
赤い布をかけた高い台にレーニンの胸像が飾ってある入口の広間へ来ると、
「ほら! 見た?」
壁新聞の前へオーリャは信吉をひっぱってった。
「こりゃ、誰れ?」
へえ……。仕事台の前へ立った信吉の写真が壁新聞に出てる。
「おきき。読んだげるから。
われわれの工場の旋盤部へ、はじめて一人日本の若者が入って来た。セリサワ・シンキチ。二十二歳だ。貧農の三番息子だ。アルハラの××林業で働いていたが、そこでソヴェト同盟の労働者がどんなに暮しているかという話をきいた。モスクワへ逃げて来た。旅券なしだった。
モスクワではじめ煉瓦砕きをした。それから『鋤』の旋盤第三交代へ働くようになった。
彼は、まだロシア語を読書きは出来ない。だが、もうオソアビアヒムと、モプルの会員となった。
労働通信員 グーロフ」
「ふーむ」
「間違わずに書いてある?」
「ああ」
「この写真、誰がとったのかしらん」
オーリャは、紺の上被りの結びめが可愛くつったってるオカッパの背中をかがめて、シゲシゲ写真を見た。並んで信吉も、ひとの写真を見るようにそれを眺めながら、